懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

【読了】津原泰水『11 eleven』河出文庫

私の読書範囲の大半は長編推理小説が占めているが、他にも読みたいジャンル、作家は山積みである。そんな積読の山の上の方にあったのでようやく手にとった。津原泰水先生の作品を読むのは初めてだった。

11 eleven (河出文庫)

11 eleven (河出文庫)

 

 本書は短編集である。劈頭を飾る「五色の舟」はツイッターなどでも非常に良い評判とともに語られているのをたびたび見たことがある。好き嫌いは別として、その期待が裏切られることはまずないように思える。異形の者たちの擬似的な家族計画。ファンタジーのような雰囲気からはじまる物語だが、すぐに現代という時代を反映したものだと気づく。戦時中の物語だ。ただでさえ生き難い時代に、生きづらい異形の者たち。その設定が最後にすべてひっくり返され、最後の一文でまた反転する。戦争文学、歴史小説、ミステリー、SF、さまざまな要素が渾然一体となり、悲惨なまでに醜いものが、美しい五色の彩りを見せる。たった30数頁でここまで読ませるのかと、畏敬の念すら抱くような読了感であった。

 

全編を通して、人間が抱く異様な執着心とそれが招く破滅、といったものが物語の根底にあるように思う。また人間の認識のあり方というものもテーマになっているのだろう。悲惨だがどこか切なくて美しい破滅の光景はある種の快感を伴う恐怖を読む者に与えずにおかない。「手」や「クラーケン」のラストなどは特にそうだった。私自身は本書の作中で描かれるものに共感することが多くあったから余計にそう感じたのだろう。

 

個人的に最も面白かったのはおそらく本書で一番短い掌編「琥珀みがき」である。たった6頁。それだけでこんなにも人が生きるということのやるせなさ、思うに任せない現実、それでも生きていくしかない現実を描けるものなのか。最後の一文がまるで自分の心の叫びであるかのように読む者に突き刺さる。