懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

【読了】眉村卓『なぞの転校生』講談社文庫

本作はライトノベルという用語が定着する以前、青少年向けの文芸作品を指すジャンルとしてジュブナイルという用語が使われだした頃の代表的な作品である、というのが私の理解だ。ジュブナイルの歴史については詳しくないのでこれ以上なにもいえない。1965年から雑誌連載が開始され、1975年に文庫化、テレビドラマ化。近年でも版元を変えて再文庫化、そして再ドラマ化もされている眉村卓氏の代表作である。

なぞの転校生 (講談社文庫)

なぞの転校生 (講談社文庫)

  • 作者:眉村 卓
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫
 

舞台は本作が書かれた当時(だと思われる)の中学校と「戸数の多いマンモス団地」。団地に住む少年・広一の前に、ある日なぞの転校生・典夫が現れる。広一の隣の部屋に引っ越してきたらしいその少年は「どう見ても、ただの日本人ではな」く、「髪も、ひとみも黒かったが、整った顔だちといい、ひきしまった筋肉といい、まるでギリシャ彫刻を思わせるような美少年だった」のだ。ありがとうございます。最高です。と、個人的な感想は置いといて、突然現れた転校生の美少年は、見たこともない道具を操ったり、中学生とは思えないくらい博識だったり、初めて挑戦するスポーツで学校代表選手を打ち負かしたり、明らかに只者ではない。まさになぞの転校生。いったい彼は何者か。

 

という感じで物語は始まる。青少年向けだけあって文体は平易なものでとても読みやすく、SFというジャンルの入門書として最高の作品だろう。この作品を10代半ばで読んでいたらどうだっただろうとはいまや想像するしかないが、かなり楽しい読書体験になっただろうことは間違いないと思う。いまの時代に初めて読んだ私としては、当時の学校や団地の雰囲気などが垣間見えるようで非常に興味深いものだった。こういう都会の青春にはいまでも憧れる思いがある。自分になかったものを疑似体験できるというのも小説の読み方のひとつではあるだろう。そう思うとますます若いときに読みたかったとも思ってしまう。