懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

十月三十日。

久しぶりの遠出の為に、はやく起て出立し、地下鉄東西線直通電車に乗て終点なる東葉勝田台駅に向ふ。

余はかつて多年千葉に住みしことあれど、果して東葉高速線を使ふこと一度もあらざりけり。東葉勝田台といふ駅名は、東西線の終点なれば目にする由多かりしが、さりとて奈辺にありたるや、深く思はずなりにけり。思はざるのみならず、名のみ知りて総てを知れりと思ひ成したる先入観の陥穽に、囚われたることすらこころ得ざりけり。

世界を広げんが為に、遠くばかりを望みて、近くを顧みざる態は、却つて世界を鎖すものなるべし。この一事をもつて余は且つ驚き且つ羞入りぬ。如何に自らを無知の檻に鎖し込めたるか。如何なる程の知る由をこころ得ざるか。近頃頓に思ふこと多かり。

此度の遠出は桜咲く、春にはあらねど佐倉なる、歴博を訪ぬるものにて、往き方を調べんと地図を見たるに、勝田台は其の途上にあり。初めて知ると知らざるの区別の生れたる心地す。

斯やうな事情によりて、至りし東葉勝田台、徒歩より往くはなほ遠かれば、京成線に乗換えて、特急なれば一駅なる、佐倉駅に降りぬ。秋晴れの凜々たる天の下を歩き佐倉城址公園に着く。一年ぶりなる友と合流し、後の行程を諸共に、為すことの嬉しき言尽くすべうもあらず。

歴博訪問の由は、特別展にて伽倻諸国に所縁ある文物を見んが為なり。余は殊更に古代朝鮮半島に興味あらざれど、ここにも又名のみ知りて総てを知れりと思ひ込みたることあらば、知るをもつて知らざるを知るこそ誠の目的なれ。

博物館内の食堂の混雑甚しければ昼餉も得取らで巡回す。固より全ての展示物を見る時間のなかりせば、程良きところで切り上げて退き、城下なる武家屋敷を見物しつ、千葉を指して又電車に乗る。

はや日も暮れてそがままに、蘇我に向ひて映画館に往き、劇場版『ぼくらのよあけ』を観る。漫画にては描き難かりけん宇宙の表現美しく、思ふに優たる良作なり。

その後時間余りたれば、千葉に戻りて麦酒を飲む。酔ひて愉しく相譚ひつ、されど過すことはなく、遅からぬうちに相別れて、家路を指して帰りぬ。