懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

夏も終わってしまって今更ながらDIVE!!を視たけど最高だった件。

結論から言うと、最高の夏がそこにありました。飛込競技を通して描かれる少年たちの青春の物語。秋も深まる季節ですがまだ視ていない人に強くオススメしたい作品です。原作は森絵都先生の小説で既に完結しているもの。アニメ版は2017年の夏に放送されたものです。

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

 

経営上の理由から閉鎖の危機に瀕しているMDC=ミズキダイビングクラブ。そこに通う若きダイバーたち。アメリカ帰りの新コーチによる抜本的な指導法の見直し。来年に迫るオリンピックへの切符をかけた闘い。そして10代というかけがえのない青春の日々。

 

物語の背景はこんなところ。自分たちの通うクラブの存続もかけてオリンピックへ挑むというストーリーは広義の部活物の王道ですね。とてもわかりやすい導入で物語の世界に一気に引き込まれます。そしてなにより美少年。小・中・高と三拍子揃ってみんな美少年で鍛え抜かれた筋肉。そう、マッスル。躍動するマッスル。美しいことこの上ない。

 

というところはさておき(いやもちろん重要ではあるけれど)。本作の重要なテーマになっているのは現代におけるスポーツが抱える問題。時代遅れの指導法や精神主義。個人の技量を磨くスポーツはしかし誰のためのものであるのか。オリンピックなどの巨大な大会における商業主義。様々な問題への批判的な視点が物語に組み込まれているところに共感するものが多々ありました。例えば、第1話で具体性に欠ける指導をする大島コーチに苦笑を漏らす生徒たち。なんてシーンは現実の部活などで身に覚えのある人はたくさんいるのではないでしょうか。飛込競技の経験はなくとも、なにかしらスポーツの経験があれば、頷かざるを得ないような場面がたくさんあります。

 

新旧指導法の対立という部分は麻木コーチの登場でより鮮明になります。そして麻木コーチの登場は物語において重要な役割を果たします。彼女の登場によってMDCは、MDCからオリンピック選手を輩出するという高い高い目標へ向かうことになり、そのために生じる環境の変化に少年たちは翻弄されていく。それまでは本気ではあってもどこかお遊び感覚でやっていた飛込競技。しかし、世界を目指すとなると、全てをかけて、それは文字通り生活の全てをかけて、取り組まなければならない。そういったスポーツの世界の厳しさに10代の少年たちの日常的な悩みが絡んでくる。ここがDIVE!!の一番の見どころでもあります。青春の青春たる所以です。

 

スポーツをする上で間違いなく避けて通れない、才能という厄介な代物との付き合い。持てる者と持たざる者との差。成長するに従って決定的に大きくなる違い。ましてや個人競技。勝ち負けは個人のものとして明確になってしまう。悔しい、負けたくない、譲れない感情。そういったものを、ときには人間関係に亀裂を生じさせるドロドロしたものを、DIVE!!では真正面から描かれます。そこがすごくいい。個人競技ゆえの残酷さからはやはり目をそらすことはできませんね。

 

なんのためにスポーツをするのか。飛込競技をするのか。これもDIVE!!における大きなテーマのひとつ。10mもの高さからのダイブ。巨大なコンクリートドラゴンから、まるで翼をもって羽ばたくように、大空へ向かって、透き通る水面へ向かって、飛び込む。それはまさに自由の象徴としてのダイブであります。しかし、若きダイバーたちは決して自由ではありません。友人、家庭、ライバル、過去、恋愛、そして自分自身……。様々なしがらみに取り巻かれ、檻の中に閉じ込められ、それでもなお、なにゆえに飛ぶのか。簡単に答えが出せる問題ではないけれど、DIVE!!においてはひとつの方向性が明確に示されます。それぞれのキャラによって抱えた問題は違えど、なんのためにスポーツをするのか、それは他でもない自分のためであると。なによりも大事にするべきなのは自分の気持ちであると。型にはまって自分の良さを殺してしまうのはもったいないと。これがDIVE!!が語る最も強いメッセージだと思います。現代のスポ根はこういう在り方がいいですね。

 

熱いシーンといえば最終回。調子を崩した息子を応援する富士谷コーチ渾身の叫び。泣くしかないやん、こんなの。頑固親父が最終回でデレるのは王道の中の王道ですね。熱すぎるよ。

 

見たことのない景色が見たい。その向こう側へ飛んでいきたい。人間が抱く飽くなき探究心、好奇心、夢。スポーツがもつ明るい部分も暗い部分もとてもいいバランスで活写したDIVE!! 彼らの日々の続きが見たくてたまらないです。

DIVE!! DVD BOX(完全生産限定版)

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