懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

木々高太郎『わが女学生時代の罪』、読了。

 戦前から戦後すぐにかけての日本の探偵小説における記念碑的作品の大部分を網羅した選集としては現在でも手に入りやすく読みやすく探偵小説の入門書としても最適な創元推理文庫「日本探偵小説全集」シリーズ、その第7巻、木々高太郎集、未読だったので読み進めていました。

日本探偵小説全集〈7〉木々高太郎集 (創元推理文庫)

日本探偵小説全集〈7〉木々高太郎集 (創元推理文庫)

 

  800ページ近い分厚い文庫本には8つの短編と2つの長編が収録されています。内容は以下の通り。

「網膜脈視症」
「睡り人形」
「就眠儀式」
「柳桜集 二つの探偵小説」
『折蘆』
「永遠の女囚」
新月
「月蝕」
『わが女学生時代の罪』
「バラとトゲ」

 作者の木々高太郎先生は慶應義塾大学医学部卒の大脳生理学者でもあったらしく、その作品にも精神分析的な手法が登場したり、精神科医の探偵役が登場したり、医学者としての作者の知見を活かした作風が随所に見られます。精神医学の専門的な説明も出てきますが、初期小栗虫太郎作品のように訳がわからないよ、なんてこともなく読みやすいです。しかし精神病というものについての価値観なんかは、当然ながらこの時代の、現代から見れば古いものなので、すっきりと読めない部分も多々あるかとは思います。

 長編『わが女学生時代の罪』。もうひとつの長編『折蘆』も好きでしたが、こちらもとても面白かった。まずタイトルがいいですね。神津恭介シリーズに似たようなタイトルの作品もありますね。そちらはまだ読んでいませんが。

 精神病院に入院しているとある女性、この女性が本作の主人公といってもいいでしょう、その女学生時代の、過去の秘密を探っていくというお話。その過程で発生した現在の変死事件と結びついていくというところがミステリーなわけですが、この女性視点の回想がところどころ入るのでちょっと読みづらいきらいもあります。しかし登場人物の関係性が概ね明らかになり、冒頭の事件に繋がってきたところからラストにかけて格段に面白くなってきます。

 本作の大きなテーマのひとつをなしているのが同性愛だったりします。主人公の女学生時代の同性愛の思い出。つまり、百合です。とはいえ百合好きな人にオススメできるかといえば、そうもいえないわけですが。作中に描かれる同性愛観はけっこう酷かったりするので、これも当然といえば当然、そのあたりを度外視して読めるのならば。

 本作のトリックのひとつである主人公の妊娠にまつわる謎。現実的にあり得ることなのでしょうか? とても気になるところ。しかし、百合に男が介在するというのは多くの百合クラスタにとっては地雷でしょうから、やはり本作はオススメできないかもしれませんね。

 毒殺トリック自体はとても陳腐なものですが、錯綜した登場人物の関係性の中で用いているところがいい味出していますね。同性愛、異性愛、結婚、家族。本作のメイントリックはこの人間ドラマそのものにあるといってもいいのではないでしょうか。