懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

【読了】小栗虫太郎『二十世紀鉄仮面』河出文庫

来月、2019年5月上旬に、河出文庫から『法水麟太郎短編全集』という新刊の発売が予定されている。詳しい情報や書影などはまだ公開されていないようだが、おそらくKAWADEノスタルジック<探偵・怪奇・幻想シリーズ>に連なるものかと思われる。小栗虫太郎といえば「黒死館」があまりにも有名だが、名探偵・法水麟太郎が登場する作品は「黒死館」より先に4つの短編があって、これらも極上のペダントリーと非現実的なトリックのアクロバットを楽しむことができる傑作ばかりである。河出文庫からはこれまでに小栗虫太郎の長編作品が4つ(うちひとつは連作短編ともいえる『人外魔境』だが)刊行されているが、ようやく短編作品も、と思うと嬉しい限りである。

 

さて、法水麟太郎が登場する長編作品はと言えば、あの悪名高い『黒死館殺人事件』と、もうひとつが『二十世紀鉄仮面』である。

二十世紀鉄仮面 (河出文庫)

二十世紀鉄仮面 (河出文庫)

 

書かれたのは1936年で法水麟太郎シリーズとしては後期の作である。初期の作品では事件の探偵が物語の中心だったが、本作では作風の転換が図られており、探偵小説的なトリックを鏤めつつも、冒険小説風な仕上がりになっている。これまで法水麟太郎の相棒として登場してきた支倉検事なんかは冒頭にちらっと出てくる程度で、あとは法水単身で事件に巻き込まれていくところなどはシリーズの中でも異色と言えるだろう。「海峡天地会」のようなエキゾチックな世界観に目まぐるしいアクションの連続で、最後まで飽きが来ない極上のエンタメである。

 

とはいえ、全編に横溢する怪殺人事件や暗号などなど、悪趣味な探偵小説愛好家を狂喜乱舞せしめるギミックも満載で楽しい。とにかく楽しい。「紅毛傾城」を思わせる名前の暗号は最高だ。何を食べたらこんな言語センスが身につくんだろう。最後の戒名の読み方とかもう爆笑である。これだから小栗虫太郎作品が大好きなんだ。