江戸川乱歩が編纂した偉大なるアンソロジーの改題新版、その第2巻。
旧版からの変更点は以下のようなもの。
・旧版2巻に収録されていた以下の2作品が新版では抜けている。ベントリー「好打」は新版では5巻に収録の予定で、コール夫妻「窓のふくろう」は新版では3巻に収録の予定とのこと。
・旧版では1巻に収録されていたバー「放心家組合」が2巻の最初に収録されている。
・旧版にはいずれの巻にも収録されていなかったチェスタトン「奇妙な足音」が追加されている。
・グロラー「奇妙な跡」が原語からの新訳に変わっている。
・フリーマン「オスカー・ブロズキー事件」が創元推理文庫『ソーンダイク博士の事件簿』に収録されているものと同じ訳へと変更された。
さて、感想をいくつか。
バー「放心家組合」は旧版1巻で読んでいたはずだったが、びっくりするくらい覚えていなかった。そのおかげでとても新鮮な頭で再読できてよかったかもしれない。オチに伴う奇妙な余韻は、まさに作中のラストで探偵役ユウゼーヌ・ヴァルモンが感じたものと同じだろう。呆気にとられるというか、唖然ボーゼンというか、読者の方まで"放心"してしまう仕掛けは素晴らしい。
ルブラン「赤い絹の肩かけ」はご存知世紀の大怪盗アルセーヌ・ルパン登場作品。本作においてはルパンはある種の探偵役を果たす。宿敵ガニマール警部への助言者として。もちろんこの2人が共闘するわけではなく、ルパンは事件の鍵だけ残してガニマールを煙に巻く。その手並みの良さには舌を巻かざるを得ない。事件の真相が冒頭で明らかにされるという趣向は倒叙ものと同じ発想だが、本作では最後までガニマールを手玉に取るルパンの行動にも様々なトリックが散りばめられていて読み応え抜群である。余談だが、改めて読んでみて、日影丈吉のハイカラ右京探偵譚はルパンものにも影響を受けているのではないかと思った。
グロラー「奇妙な跡」。本巻では最も短い10頁ちょっとの作品。しかし印象はなかなか強烈だ。解説でも指摘されている通り、ディクスン・カーのあの作品を思い出すトリックが使われている。もちろんこちらが先例である。
ポースト「ズームドルフ事件」。個人的に本巻ではこれが一番好きだった。アメリカの開拓時代を思わせる舞台、序盤の文章は少し硬いが舞台背景を生き生きと伝えてくれる。完全な密室での殺人事件。そしていかにも犯人らしい怪しげな人物たちが自白していき、最後には全てをひっくり返す真相が待っている。宗教色の強い部分は読み手によって好みがわかれるかもしれないが、私としてはとてもいい雰囲気を出しているように思えて好きだった。