懐風堂日誌

同人サークル・少年迷路主宰 五戸燈火の日記

【読了】似鳥鶏『理由あって冬に出る』創元推理文庫

冬、ですね。冬らしいものを。似鳥鶏先生『理由あって冬に出る』を読了しました。理由と書いて「わけ」と読むのはSideMと同じです。関係はもちろんありません。

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

 

 某市立高校に通う1年生で美術部員の葉山君が主人公。表紙を見ればわかるように、かわいい感じの男の子です。作中でもなんやかやと巻き込まれ振り回されるタイプの男の子。かわいいです。率直に言って。

 

舞台は市立高校の芸術棟。文化系の部活が居を構える建物に幽霊が出現するとの噂が流行り、都市伝説めいた噂話だがどうやら現実的な裏がある模様。幽霊話は二転三転し思わぬ事件と繋がって着地する。ドタバタ学園コメディかと思いきや本格ミステリ的なトリックも効いてる作品です。

 

物語は主人公・葉山君の1人称視点で語られます。高校生を中心にした学園もの、青春もの。文体もラノベっぽい感じでアニメ調の表紙がぴったり。ただ本書のプロローグは高校生とは全く無縁そうなエピソードになっていて、そんなところはいかにも推理小説っぽいですね。もちろんちゃんと伏線になっているのは言うまでもないことです。

 

学校の七不思議的な幽霊話から始まって段々と現実的な話にシフトしていくところ、登場人物の視点によって物語が様相を変える、本書の持つ構造が推理小説としてとても読み応えがありました。幽霊の噂話。それはいったい誰のための物語であるのか。幽霊の出現方法に関する探偵小説的な謎解きも読みどころですがミステリの本質ではありません。問題は幽霊話の理由、必然性であり、それを語る人間の思惑にある。様々な物語が錯綜して最終的には高校生にはちょっと酷な現実に直面しますが、事件の謎解きというのはだいたいそういうもので、現実はお涙頂戴とはいかないもの。「いい話」で終わらなかったところがとてもよかったと思います。市立高校シリーズ、続きが読みたいです。

 

余談ですが、気づけばなぜかうちには本書が3冊くらいあって……。なぜなのか。おかげで旧版の表紙と見比べることができてよかったと。古い方のイラストは芸術棟の雑然とした雰囲気がよくわかる絵でこちらも好きです。

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