さて、長きに渡る館シリーズをここまで読んできた読者なら、まずはタイトルでびっくりするだろう。「びっくり館」て。こっちがびっくりやわ。これまでの館は全て漢字2文字の館だったのに、ここへきてひらがな、しかもユーモラス。もしかして本作はシリーズの番外編? このタイトル自体になにかトリックが? とまぁ本を開く前から妄想が止まらない。館シリーズだからね。どこにどんな罠が仕掛けてあるかわからない。
今回読んだのは講談社文庫版だが、本の天地や小口を見ると、なにやら黒い線がたくさん見える。パラパラめくってみると挿絵がたくさんあるではないか。ここでまたびっくり。いままでの館になかった趣向だ。ここにもなにかトリックが? どうしよう、もう読むのが怖い。
表紙をめくってまたびっくり。可憐な、けれどどこか不気味な人形のイラスト。もうひとつめくってびっくり。同じ人形のテイストで描かれた男の子の絵。これらがなにを意味するのか。
登場人物一覧表。すごくシンプルだけど、故にいろんな解釈ができる。今回はどんなトリックが?
本文に入ってさらにびっくり、というかもう笑うしかない。いきなりよく知ってる名前が出てきたり。どうやら本作は主人公の小学生時代の回想という感じで描かれるらしい。もうダメ。もう無理。トリックの臭いを勝手に嗅いでしまう。時間に関するトリックだろうか? でもそれはもうやったはずだし。主人公の記憶に関するトリックだろうか? そもそも「ぼく」というのは誰なのだ? 疑い出したらキリがない。とにかく読めという話である。
冒頭わずか10ページほどでもうお腹いっぱい。これだから綾辻センセ大好き。その後の展開もなにからなにまで綾辻ワールド全開。ちょいちょいミステリネタを仕込んできてるとことかも最高。海難事故? ○沼のおじいさまとおばあさま? そんなメタ的な展開? いったい何への供物なんだろう……。
ともあれ、最後まで疑惑の渦に翻弄されて笑い転げながら読んだわけだが、真相はとってもシンプル。かなり大胆なトリックだが、それを成立させるための世界観、物語、巧妙な叙述にもうびっくり。ホラーめいた終わり方もすごい。本作は子供向けの企画の一環として書かれたものらしく、なるほど本文の読みやすさや一部の設定にはそういう理由があったのかと後から気づいた次第。本作を読んでミステリ沼に落ちる子供もいたのだろうか。僕も小学生の頃にこういう作品を読みたかったものだ。